八郎湖FNPJ
フィールドノートプロジェクトの記録

フィールドノートを素材に、八郎湖との関わりを言葉にしていくワークショップの記録です。

運営:Three from Two|調査事務所・NPO法人はちろうプロジェクト 秋田県・八郎湖 最終更新:2026年7月13日
ワークショップ会場。畳の上に2つのカードの列とカードの束が広がっている
第1回ワークショップの会場。2チームがそれぞれの列をつくっている(2026年6月14日)。

1このプロジェクトについて

八郎湖でのフィールドワークでは、いろいろなことが起こります。生きものを観察しながら話したり、名前をつけたり、顕微鏡を覗き込んだり。このプロジェクトでは、参加者が書いたフィールドノートを素材に、それを読み直すワークショップを行い、そこで見つかったことを言葉として記録しています。八郎湖で環境教育・生物調査を続けるNPO法人はちろうプロジェクトと、Three from Two|調査事務所が共同で運営しています。

八郎湖は、アオコや水質の問題として語られることの多い場所です。ここで扱うのは、その手前にある記録です。人がこの場所で実際に何をして、何に気づいているのか。できあいの言葉を当てはめるのではなく、ノートに書かれたことから出てきた言葉で書き留めることを方針としています。

ワークショップは今後も繰り返し行い、言葉は回ごとに増えていきます。このサイトは、その記録の置き場です。

1

回の開催

59

枚の書き起こしたカード(2列)

7

の生まれた言葉

2第1回ワークショップの記録

2026年6月14日、生物調査合宿のフィールドノートを素材にした半日のワークショップを行いました。以下はその記録です。

日付

2026年6月14日(約3.5時間)

会場

旧渡邉幸四郎邸(秋田市・新屋)

素材

八郎湖・生物調査合宿(2026年5月16–17日・はちろうプロジェクト)のフィールドノート

ノートの書き手

5名

当日の参加

7名

方法

v1.0(「方法」の節を参照)

素材となった合宿

はちろうプロジェクトの一泊二日の合宿では、鯉の解剖、顕微鏡でのミジンコの観察、網での水生生物の採集、釣ったブラックバスの調理、カヌー、スケッチなどを行いました。参加者はそれぞれフィールドノートを書きました。観察の内容だけでなく、移動中の会話や食事のこと、その場で思ったことも、そのまま書かれています。

当日行ったこと

まず、ノートをすべてカードに切り分けました。1冊でおよそ60枚になります。二人一組になり、片方が気になるカードを1枚出し、もう片方が「似ている」と感じたカードを自分の手札から出して隣に置いていきます。このとき、カードのどこに注目したかを、それぞれ別の色のペンで線を引いて残します。つながらなくなったら列を区切り、次の列を始めます。

畳の上に広げられた、切り分けられたテキストカードの束
切り分けられたカード。1冊のノートがおよそ60枚になる。
3人の参加者が畳に寝そべり、カードに色ペンで線を引いている
注目した箇所に、それぞれ別の色のペンで線を引いていく。

後半では、合宿の写真を切ったカードも混ぜて、同じ作業を続けました。文字だけのときよりも連想が出やすくなりました。最後に、できあがった列を2チームで見せ合い、列の中に繰り返し現れているパターンについて話し合いました。

参加者が畳に広がった写真カードの中から1枚を選んでいる
後半は、合宿の写真を切ったカードを混ぜて続けた。

結果

当日は、大きく2つの列ができました。一方は40枚(テキストと写真をあわせたもの)、もう一方は19枚です。列そのものは「カードの並び」の節に掲載しています。

共有の場では、「何かをしながら話している場面が多い」「名前をつける場面が繰り返し出てくる」「顕微鏡で見るときと歩いて見るときで視点が入れ替わる」といったパターンが確認されました。こうした当日の議論と、その後の書き起こしの整理から、八郎湖との関わり方を表す7の言葉をまとめました。

カードの列のそばに置かれた菓子の包みと黄色い付箋、色つきの丸シール
列のそばに置かれた付箋と丸シール。気づきはその場で書き留められた。

気づきのハイライト

当日の議論と書き起こしの整理から生まれた、八郎湖との関わり方を表す7つの言葉です。学術的な分類ではなく、その場の観察や会話から出てきた言い回しを書き留めたものです。

1

名付けることで関わる

太ったウシガエルを「ビール腹ガエル」と呼んだ瞬間、それは話題にでき、思い出せる存在になる。生き物のあだ名、子供の名前、ゆるキャラのネーミング。名前は対象を切り分ける道具ではなく、関わりの入り口で、名前の数だけ関わり方が増えていく。

2

ながら話で気づきがこぼれる

顕微鏡を覗きながら、スケッチしながら、口が動く。正面から尋ねると出てこない話が、手と目が対象に向かっているときに限ってこぼれてくる。

3

神の目と虫の目を行き来する

湖岸を歩くとき、自分がどこにいるか地図の位置を想像する。顕微鏡でミジンコを見るとき、ミジンコと同じ世界にいる気がする。八郎湖では、この二つの目が一日のうちに何度も入れ替わる。

4

スケッチする・鳥の声は書きとれない

みんなスケッチをたくさんして記録に残す。しかし鳥の鳴き声は「ピョ、ピピヤァ」と言葉、しかも当て字にしかならず、後で読んでも思い出せない。記録は「見る」に偏り、「聞く」を取りこぼしていく。

5

まっすぐな道、ぐねぐねの航跡

干拓地の道は人間の意志だけで引かれた直線。ボートは波と風と腕の力が噛み合って、まっすぐには進まない。二種類の線が同じ風景に同居している。

6

ところどころに標識

オロナミンCの空き瓶が「ここは釣れる」の目印になり、「現湖岸は急に深くなる」が小学生への標語になる。湖のあちこちに、通う人だけが読める印が置かれている。

7

合わないものの異国感

ビールにマシュマロは合わない。干拓地にぽつんと立つモアイ。なじまないものは、その場所に何が「合う」のかを逆から照らし出す。

3カードの並び

当日できた2つの列を、記録写真から書き起こして掲載します。各カードの本文、線が引かれた箇所、前のカードとのつながりについての説明を、並んだ順に載せています。

※記録写真からの書き起こしのため、一部の接続の解釈と線の色は推定を含みます(該当箇所に「※推定」と付記)。カード番号の重複は、両チームで同じカードが参照された可能性があります。

畳の上を縦に伸びるカードの列。テキストカードと写真カードが交互に並ぶ
当日のカードの列(部分)。上から下へ進む。
写真カードの列。それぞれの写真に色ペンで注目箇所が囲まれている
写真カードの列(部分)。線は注目した箇所の記録。

チームA ― 名付けから食われるまで(40枚)

名付け、異物感、初めての経験、生物への接近、食物連鎖が中心に見える列。最終共有では「鯉の頭に大興奮・解剖好き」から「食われる」へ至る連鎖として語られた。

チームB ― ながら話・帰属・記録方法(19枚)

人の行動、帰属する場所、昔と今、視点の入れ替わり、記録方法へ展開する列。最終共有では、人の立ち振る舞いから帰属・断絶/継続・視点・記録方法へ向かう連鎖として語られた。

4方法 ― メソッド v1.0

フィールドノートを書くことは、文化人類学の基本的な方法です。その場に加わりながら、同時に少し距離をとって観察する。何が重要かをあらかじめ決めずに、体験を文章にする。人類学の調査では、こうして書きためたノートを、半年から一年ほどかけて少しずつ切り分け、どことどこがつながるかを探していきます。このワークショップは、その作業を一日に縮めて行うものです。

01

切る

一続きのノートのままでは並べ替えられないため、まずカードに切り分けます。

02

つなぐ

二人一組で、似ていると感じるカードを交互に出し、注目した箇所に線を引きながら列をつくります。

03

名前をつける

できた列を見て、そこに繰り返し現れているパターンに名前をつけ、付箋に書き留めます。

基準

このワークショップには、いくつかの決まりごとがあります。

素材の限定

ノートに書かれたことだけを使います。記憶や、すでに持っている考えを持ち込むと、頭の中にある結論をなぞることになるためです。書かれた断片どうしのつながりから、予想していなかった発見を探します。

つなぎ方

種類ではなく、動作でつなぎます。「魚の話」「食べ物の話」でまとめると、分類ができるだけで、八郎湖で人が何をしているのかは見えてきません。「覗き込む」「名前をつける」「壊す」といった動作でつなぐと、行動のパターンが浮かび上がります。

粒度

手がかりは動詞くらいの大きさを目安にします。固有名詞は他のカードとつながりにくく、大きな概念からは当たり前の話しか出てきません。その中間にある動作の言葉から始めます。

写真の併用

文字どうしのつながりが行き詰まったとき、写真は別の種類の連想を開きます。

枠組み

人間中心か、自然中心か、といった出来合いの枠組みには当てはめません。一対一のやりとりの中から、この場所の記録からしか出てこない言葉を見つけることを目指しています。

版の管理

この方法は版として管理し、回ごとの記録と申し送りをもとに改訂していきます。今回の版はv1.0です。

5連絡先

このプロジェクトについてのお問い合わせは、下記までお願いします。

運営:Three from Two|調査事務所・NPO法人はちろうプロジェクト
お問い合わせ窓口:Three from Two
tsuda@3from2.com